【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―
また、変な沈黙。
なんでかな、映画も皆で見た仲なのに、
状況が状況だから、話すことがないのかな…
「俺、自分の話していい?」
え?と口に出そうになったのを、飲み込んで、背もたれから背中を起こした。
言葉を発したのはアザミくんだった。
「なに?」
「いや、俺、話しておきたいっつーか、……ずっと、言わないできたから、
話せる相手も、居なかったし、…キノに言いに行くことなんだけど。
その前に、やっぱり言っておきたいと思ったから」
アザミくんの言葉に私とエリちゃんは頷いた。
マヒロくんは窓の外をじっと見つめたままだった。
「フユは知ってると思うけど、俺の親は仕事人間だから、昔っから家に居ない方多くて、中学まではまあ、頭も良かったし、
で、タカラとは幼稚園の時からの仲で、家で一人の時とか、よくタカラの居るとこに勝手に遊びにいってた。
まあ、普通に、タカラのこと好きだったから」
「…うん」
アザミくんも、タカラさんが好きだったんだ。
やっぱり、すごい人だったんだろうな。
すごい魅力的な人だったんだろうな。
キノだけじゃなかったんだ。
好きな人を失う悲しさを味わっていたのは。
マヒロくんも、きっとたくさん苦しんだんだろうな。
「だから、ぽっと出のキノがすっげー嫌いだった。
タカラはキノのこと同情してんのか特別やさしい気がしたし、キノがなにもしなくてもすごい構ってたから。
だからキノがまたどっか行くって聞いたとき、嬉しかった。やっとまた、俺がタカラの一番近くに居れるって思ったから。
だけど、それは違った。
キノが居なくなってからもタカラは、俺の近くに戻って来なかった。いつもと変わらないように見えて、全然違ってた。
悲しそうだったし、たまに泣きそうな顔するから。なんかあったのかって、聞いたら、
タカラは、キノに告られたって言った。それ以上は言わなかったけど」
アザミくんは、一呼吸置いて、顔を下に向けた。
そのまま、さっきより小さな声で、ぼそぼそと話し始めた。
「……だから……だから、その時嫌でも分かった。タカラにとって、たぶん、キノは特別だったんだろうって。なんでかわかんねえけど、確信して、
キノは、めっちゃムカつくし、嫌いだけど、タカラが今のままなのも嫌だし、また、笑ってほしかったから、
それがキノの一番近くに居るときだとしても、もういいと思ったから。
…………タカラに、言ったんだよ。
キノに、自分の気持ち言いに行けって。
また、いつもの笑顔を見れるなら、そうした方がいいんだろうと思ったよ。
それから、タカラはキノに会いに行った。
けど、タカラはもう戻って来なかった。
俺が言った一言のせいで、
タカラは事故に遭って死んだ」
かける言葉が見つからなかった。
私は、ただ、まばたきもせず、
アザミくんのうなだれた肩を見るしかなくて。
アザミくんは、誰にも、このことを言わないで今まで生きてきたんだ。
それが、どんなに辛かったのか、
私にはまったく想像もつかなかった。
「自分のせいだなんて、思いたくなくて、怖くて、信じられなくて、そのあとすぐ、キノのせいにした。
そうしないと、自分を保てそうになかった。
葬式に来なかったキノに、逆ギレして、大声でお前のせいだって電話で叫んだ。
それから、受験勉強なんて全然しなくて、不良っぽいことやって、道踏み外して、もう親には見放されてたし、色んなことがどうでもよくなってた。
けど、ふと、思い出す度に、やりきれない思いになって、死にたくなって、けど、死ねなくて、
どうしていいか分かんなかった。
こっちの学校来たのは、ほとんど勢いだった。いまの状況を変えたいと思って、ただ、それだけ」