【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―
アザミくんは自分服の裾を持ち上げた。
露になった腹には、無数の切り傷が浮かんでいた。
「リストカットってあるじゃん。腕だとさ、半袖着れなくなんの。
だから、腹切ってた。
こっち来てからほとんどしてねーけど」
アザミくんが少し笑った。
けど、もちろんアザミくん以外誰も笑ってなかった。
ただ事じゃない。
笑うようなことじゃない。
アザミくんが、今まで普通に友達として話していたことが嘘みたいに思えた。
私は、キノのことばかりで、
アザミくんの苦しみを何一つ考えたことはなかった。
「まあ、だよな。反応困るよな。
ごめんな、こんな空気にさせたかった訳じゃねーんだ。
けど…言ったら少しスッキリした」
「アザミくん」
「あー、ごめん。腹汚かったな」
「辛かったよね。苦しかったよね。
すごいね、アザミくん。よく、ここまで一緒に来てくれたね。
けど、私は、アザミくんのせいじゃないと思う。
私が言うことじゃないけど、アザミくんは悪くないよ。
絶対悪くない。
ごめんね、勝手に言って、でも、悪くないよ……」
なんか、泣けた。
だって、すごいよ。
たくさん道を踏み外しても、
アザミくんはちゃんと戻ってきたよ。
自力で、戻ってきた。
そして、今、一緒にここにいる。
キノに、会いに行こうとしてる。
それって、ものすごいことだよね。
私の悩みなんて、
きっとちっぽけなものだよ。
近くにはもっともっと、
苦しんでた人がいた。
「うーーー……ごめん、泣く、やばい、泣く」
アザミくんが笑いながら静かに泣いていた。
私は、どうしたらいいか迷って、背中をポンポンと叩いた。
いいよね。
友達だから。
もう、友達だよね。私達。
「フーちゃんって、やっぱりすごいよ」
「なにが」
「私何て言ったらいいのか分かんなかったもん」
「私だっていいことなんて言ってないよ」
「けど…なんか、すごいよ」