【完】宝探し―世界で一番愛しい人は―

ごめんね



今日はあいにく曇りだ。
雨でも降りそうな予感がする。

新しい家族と新しい家に住み始めて大分たつ。

慣れた、と思う。


去年の秋に、母さんと再会して、
俺は一言も言葉が出てこなかったけれど、

母さんは俺を見るなり思いきり強く抱き締めて、何度もごめんねと呟いて大泣きした。

大の大人が、大泣きするのを初めて見た。


そのあと、母さんは自分の結婚相手を俺に紹介した。

随分年を取っているように見えた。


母さんより十歳以上は年上だとすぐ分かった。

その人はにっこりと、優しそうに笑うと、
特に俺に触れずに、よろしくねと一言つぶやいた。

俺は彼を弘樹さんと呼んだ。


そうして、3人の生活が始まった。



母さんと弘樹さんは共働きで、家にいるのは一人が多かったけれど、夜には二人とも帰って来て、母さんの作ったものを3人で食べた。

母さんと弘樹さんは、いつも穏やかに会話していた。

まるで熟年夫婦のようだった。



居心地は悪くなかった。



とても、いいところだった。




思った以上に、家族というものは、幸せなものだった。





母さんに持っていた嫌悪感は持ち続けていたけれど、あのときの母さんとは、もう別人に思えるくらいに、

母さんは年を取ったし、穏やかで、余裕を持っていた。

安心できた。



とくに、楽しく会話をすることはあまりないけれど、

とても、穏やかな日々だった。


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