『死』と言う名の何か【短篇集】
そんな彼の様子を知ってか知らずか脅えきった子犬はスルリと彼の腕をかいくぐってしまった。

「…お…いっ…」

力なく出される彼の声は子犬には届きはしない。

走り出した子犬は車の様子など見えていなかった。

「キャウンッ」

小さな犬の悲鳴と共に先ほど彼が救った命は、違う車によって失われてしまったのだった。

その様子を見つめているしか出来ない彼の瞳は、次第に力を失っていった。

誰か知らない人間の悲鳴が彼が最後に聞いた声だった。

【終わり】
< 16 / 23 >

この作品をシェア

pagetop