『死』と言う名の何か【短篇集】
私は、足元のおぼつかない彼から身をかわしながらトイレに逃げ込んだ。

彼にドアを開けられる前に鍵をロックする事が出来た。

「開けろよ!」

ドアの外からは彼の狂気に満ちた怒鳴り声が響く。

それと同時にドアに包丁を突き刺す鈍い音。

ドッドッドッ…

ガタガタと自分の震える体を抱きしめ私は死を覚悟した。

そうだ、いつかはこうなる事がわかっていた。

彼が狂いだしたあの日から…

私は彼の、もはや何を言っているのかわからない怒鳴り声を片隅で感じながら昔を思い出していた。
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