対極者の対局
第二局目
これまでの十数手、ソクラテスはずっと10秒将棋のように手早く打ってきたが、ここで初めて手が止まったように思えた。
桂尾道は将棋盤の前で、次の一手を考え、解説室の司会と解説の二人も、ソクラテスがまた奇抜な一手を打ち込んでくるのでは?と、色々な議論を交わす。
時間にして一時間程経過した頃だろうか、対局会場の襖が開き、ソクラテスが『投了する』と書き置きを残して、姿を消したと報告が入った。
誰が観ても不自然な失踪。
一番納得のいかない桂尾道は、報告に来た男に詰め寄り『何故だ!?』
男は『分からない』と在り来たりな返答をした。
男の襟ぐらをつかみ取り、更に問い詰める『奴は何処にいる?』『どんな奴だった?』『プロか?奨励会か?アマのタイトルホルダーか?』
降りしきる雨のように多くの質問を、投げかけるが男は『私はソフトエンジニアとして雇われた身だ!ソクラテスどころか君の事も詳しくは知らない!は、放せ!放せよ!!』強引に桂尾道の手を振りほどき『これで君の一勝だろ。落ち着けよ・・・ハアハア・・・まだ対局は四回も残っているんだ、きっとソクラテスは・・・彼はまた来るさ、だって100億もの賞金が掛かっているんだから・・・。』
100億の賞金。これが一番の疑問点である。100億という金額は文字道理、途方もない金額で、一般的に大卒のサラリーマンの将来的平均年収が約1000万と言われる昨今で計算すると、100億を稼ぐには1000年掛かる。ワールドカップ優勝国に支払われる賞金ですら半分以下、それ程に途方もない金額が賭けられた対局ならば、普通の人ならば終局の見えていない序盤戦で投げ出すような真似をするのだろうか?ましてリーマンショック以降、お世辞にも景気が良いとは言え無い世の中で、こんなチャンスは一生に一度も来ないのが普通である。
突然の投了には、きっと何か他に大きな理由がある。
そう考えるのが、しっくり来るのだ。しかし、この対局の他の意味とは?ソクラテスも最強棋士の称号を欲していたとは、考えにくい。仮に欲していたとしても、先に挙げた理由と同じく、対局を投了するには解せない。何よりも正体を隠す理由には成らない。
【何故だ!?】
ソクラテスの投了は、謎だらけである。
『私も桂君と同じく納得が行かんな。しかし、ここで議論をするよりも、今は上の者に話を聞くのが一番良いのでは?』そう言いながら対局場に入ってきたのは、九段のタイトルを保持する将棋界の重鎮、宮田裕也と、宮田門下生で実の息子、プロ三段の宮田昇太だ。
宮田裕也『廊下に居る報道陣には、私と昇太で対応しよう。桂君は、事務所に行きなさい。誰か1人くらいは、ソクラテス君の正体を知る者が居るやもしれん。』
桂尾道『しかしですね。宮田先生と昇太さんのお二人に御迷惑をお掛けするわけには。』
宮田裕也『私達も君と同じく興味があるのですよ。昇太はソクラテス君に、一度負けているしね。』
桂尾道『昇太さんもですか?』
昇太『はい。少しだけチャットで会話もしたのですが、彼は最強棋士という称号に興味は無いと、今回の対局理由は、きっと破格の賞金だと思ったのですが、それも違ったようです。』
桂尾道『やはり』
昇太『はい。ですから、彼が完全に姿を消す前に、急いで追いかけた方が良いかと。』
桂尾道『分かりました。ここはお二人にお任せ致します。』
二人と部屋に居た数名に、軽く頭を下げると、桂尾道は廊下で立ち塞がる報道陣を、切り裂くように急いで事務所へと向かった。
桂尾道は将棋盤の前で、次の一手を考え、解説室の司会と解説の二人も、ソクラテスがまた奇抜な一手を打ち込んでくるのでは?と、色々な議論を交わす。
時間にして一時間程経過した頃だろうか、対局会場の襖が開き、ソクラテスが『投了する』と書き置きを残して、姿を消したと報告が入った。
誰が観ても不自然な失踪。
一番納得のいかない桂尾道は、報告に来た男に詰め寄り『何故だ!?』
男は『分からない』と在り来たりな返答をした。
男の襟ぐらをつかみ取り、更に問い詰める『奴は何処にいる?』『どんな奴だった?』『プロか?奨励会か?アマのタイトルホルダーか?』
降りしきる雨のように多くの質問を、投げかけるが男は『私はソフトエンジニアとして雇われた身だ!ソクラテスどころか君の事も詳しくは知らない!は、放せ!放せよ!!』強引に桂尾道の手を振りほどき『これで君の一勝だろ。落ち着けよ・・・ハアハア・・・まだ対局は四回も残っているんだ、きっとソクラテスは・・・彼はまた来るさ、だって100億もの賞金が掛かっているんだから・・・。』
100億の賞金。これが一番の疑問点である。100億という金額は文字道理、途方もない金額で、一般的に大卒のサラリーマンの将来的平均年収が約1000万と言われる昨今で計算すると、100億を稼ぐには1000年掛かる。ワールドカップ優勝国に支払われる賞金ですら半分以下、それ程に途方もない金額が賭けられた対局ならば、普通の人ならば終局の見えていない序盤戦で投げ出すような真似をするのだろうか?ましてリーマンショック以降、お世辞にも景気が良いとは言え無い世の中で、こんなチャンスは一生に一度も来ないのが普通である。
突然の投了には、きっと何か他に大きな理由がある。
そう考えるのが、しっくり来るのだ。しかし、この対局の他の意味とは?ソクラテスも最強棋士の称号を欲していたとは、考えにくい。仮に欲していたとしても、先に挙げた理由と同じく、対局を投了するには解せない。何よりも正体を隠す理由には成らない。
【何故だ!?】
ソクラテスの投了は、謎だらけである。
『私も桂君と同じく納得が行かんな。しかし、ここで議論をするよりも、今は上の者に話を聞くのが一番良いのでは?』そう言いながら対局場に入ってきたのは、九段のタイトルを保持する将棋界の重鎮、宮田裕也と、宮田門下生で実の息子、プロ三段の宮田昇太だ。
宮田裕也『廊下に居る報道陣には、私と昇太で対応しよう。桂君は、事務所に行きなさい。誰か1人くらいは、ソクラテス君の正体を知る者が居るやもしれん。』
桂尾道『しかしですね。宮田先生と昇太さんのお二人に御迷惑をお掛けするわけには。』
宮田裕也『私達も君と同じく興味があるのですよ。昇太はソクラテス君に、一度負けているしね。』
桂尾道『昇太さんもですか?』
昇太『はい。少しだけチャットで会話もしたのですが、彼は最強棋士という称号に興味は無いと、今回の対局理由は、きっと破格の賞金だと思ったのですが、それも違ったようです。』
桂尾道『やはり』
昇太『はい。ですから、彼が完全に姿を消す前に、急いで追いかけた方が良いかと。』
桂尾道『分かりました。ここはお二人にお任せ致します。』
二人と部屋に居た数名に、軽く頭を下げると、桂尾道は廊下で立ち塞がる報道陣を、切り裂くように急いで事務所へと向かった。