君色に染まったままで
「あ、ピンク」

上から降ってきた花びらに手を伸ばす
うちの目の前には大きな桜の木が立ち尽くしている
きっと、うちが産まれるずーっとずーっと前からあるんやろうな

「ピンク、茶色、赤…」

木に触れると
色んな色が見えてくる

「おい、お前なにしてんの?」

「え?」

後ろから声をかけられて、
振り返った
そこには、うちが今日入学する高校の制服を着た男の人が立っとった

「おーい?その制服、うちの高校?」

「え、えと、あ、はい…」

男の人は私の隣に立って
桜の木に触れた

「ここさ、毛虫出るで?」

「え!?」

うちは驚いて少し後ずさりする

「くくく…」

男の人は肩を揺らして笑っている
なんで?
毛虫、嫌やん?

「う、嘘やし…毛虫なんて…くくっ」

え、嘘?
うち、初対面の人に遊ばれたん!?
うちはむっとして桜の木から離れた
前をまっすぐ見据えて歩く

「何なんあの人!ホントありえんわ!」

…落ち着こうで、自分。
うちはその場で立ち止まって
大きく深呼吸をした

「ふー…で、ここはどこだろうか?」

辺りをキョロキョロと見まわす
もしかして、迷子?
スマホの電源を入れてマップをだそうとした手を止め、画面を見る

「…うち高校生になったんで?」

携帯の中で笑っている顔をそっとなぞる
そんでうちはマップを開いた

「こっちか」

今度こそ真っ直ぐ歩き出した
早めに出てよかった
なぁ、また、笑ってや…
「お前はほんま方向音痴やなぁ」
って、笑ってや…今、どこにおるん?

「彩葉!」

「いーろはっ!」

後ろから名前を呼ばれて振り向くと、由衣と莉帆が手を降りよった

「わぁ、2人共制服に合うやん」

走ってきた2人に率直な感想を述べる

「なんいーよん!彩葉も似合っとるやん!」

由衣が笑いながらうちの肩を叩く
うちら3人は同じ高校に通うことになった
他に仲よかった子はそれぞれ違うとこに行った
うちらは歩きながら話をする

「なかちゃんとか奈々美ちゃんとかも今日から高校生やんなー」

「はーちゃんも陸上の強豪校にいったしねー」

莉帆が小石を蹴って笑う
由衣が思い出したかのようにうちに話題を振ってきた

「あ、あれからなんかてがかりつかめた?」

うちは俯いて答える

「なーんも」

うちは首を横に振る

「そーゆー由衣は田所さんとどーなんよ?」

うちはからかい気味に聞く
したら、由衣は整った顔を存分に歪めてベーっと舌を出す

「光ちゃんのせいで散々!」

あー、あの人か光ちゃんこと青山さんは、由衣の中学時代のソフトテニス部の後輩
由衣の大好きな田所先生ってゆー、大学生の塾の先生にべったべたの中学3年生
そーいやあの子べったりやったな…

「あ、長田さんが2人共理科教えるけん来いってさー」

莉帆が笑いながらうちと由衣の方を見る

「蓮ちゃん教えてくれるん!?」

うちは食いつき気味に莉帆を見る
蓮ちゃんって呼んでるけど、長田さんも塾の先生で、大学2期生や
うちらはそんな話をしながら高校の門をくぐった

今日から高校生
あなたがいないことに慣れたくないから、早く、戻ってきて


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