君色に染まったままで
「俊ちゃん、大人になったら、彩葉と結婚して!」

「ええよー、でも、俺もうすぐ引っ越すけん、待っとってくれん?」

「え…俊ちゃん、どっか行っちゃうの?」

「うん、待っとってくれる?」

「…まかして!彩葉、ずーっと、待っとくけん!」

あ、なんだっけ、これ
記憶…?
誰の?
うちの?




「俊ちゃん!」

「ん?」

うちはがばっと体を起こす
そこは、保健室やった

「え…あ!あんた今朝の!!…っ!」

「あ、まだ動かんほうが良いで、頭にヒットしてしまったけん」

うちの横におったんは、野球部の格好をした今朝桜の木の下であった先輩やった

「ごめんね、うちのバカな部員がボールとれきれんくって彩葉ちゃんにあたったんよ」

うちは鈍い痛みのする頭を軽くおさえる

「…え!?」

「なに!?」

うちのぐわんぐわん痛む頭の中を今までの会話がフラッシュバックする

「さ、さささっき、俊ちゃんで返事した!?」

「え?…あぁ、うん」

先輩はニコッと笑う

「しゅ、しゅ、俊ちゃん!?」

「久しぶりやね、いーちゃん」

俊ちゃんは小さい頃隣に住んでた男の子
すごく、大好きだった男の子
うちの初恋の相手

「いーちゃん美人になっとって、今朝あった時も最初は誰かわからんかった」

俊ちゃんは笑いながら椅子に座り直す

「俊ちゃんやって、変わりすぎやけん!」

「そーかな?」

あ、そういえば莉帆がおらん…

「俊ちゃん、うちとおった女の子は?」

「あぁ、あの子なら後で迎えに来ますってゆーてハンド見に行ったよ」

ほーなんや、じゃぁ待っとこ

「それよりさ、いーちゃん…」

「ん?…俊ちゃん!?」

俊ちゃんの顔が目の前に来る
整っとる顔に不覚にもドキッとした
顔が近い…

「しゅ、俊ちゃん?」

「昔した約束、覚えとる?」

「え…」

あの約束?
覚えとる、覚えとるけど…
ごめんね、俊ちゃん

「ど、どの約束?」

俊ちゃんの表情が曇る

「そっか…」

俊ちゃんの顔が離れて
代わりに手が伸びてきた
その手はうちの頭を優しく撫でた

「覚えてないならええよ」

そう言って俊ちゃんは優しく笑った
懐かしい俊ちゃんの笑顔
何年経っても変わらない笑顔やった

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