Mr. Unknown
 客の注文が途絶えて、私がカウンターの隅でしゃがんですすり泣いてた時だった。


 彼が入ってきたんだ。

 
 激しい雨など諸ともせずに颯爽と入って来たんだ。

 
 誰もがこの男の物腰に目がいったって聞いたよ。

 
 帽子を取り、その男の顔が出たとき、

 二階の女達は皆彼に愛想を振り撒き始めた。


 私はビルに蹴飛ばされ、男へ注文を取りに向かったんだ。

 
 この男もまた私の顔を見てからかうんだと…。

 

 でもそうじゃ無かった。

 

 男は笑いながら言ったんだ。


「馬鹿にされるかもしれんが、

 とりあえずレモネードをくれ」ってね。

 
 あのはにかんだ笑顔はね、

 若い女には危ないもんだったよ。
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