手の届かないキミと
『おい、菊谷!』
部室に戻った俺は、そのときから菊谷のことを呼び捨てにし始めた。
『なんだよ、早いな。泳ぎにいったんじゃなかったのか?』
にやつく口元がうざい。
コイツ、性格悪いやつだな。
『泳げるわけねーだろ、あんなプール。去年もあのプール使ってたわけ?』
『使ってないよ。』
『は?』
『だから、使ってないって。
この学校、水泳は選択でやりたい生徒だけだし、使うプールは近くの市営の温水プール。』
雨の日でも使えるしね、と菊谷はまたたばこに火をつけた。