手の届かないキミと


多田くんも「古畑よかったよ」と言ってくれた。

「次、俺歌うからマイクもらうな!」と多田くんは私からマイクをひったくると、

るんるんという効果音が聞こえてきそうなほど軽やかに、モニターのそばまで行った。


「私、トイレ行ってくるね」

「え?」

ナナは「ごめん、前通るね」って言ってカラオケルームから出て行く。

次…多田くんが歌うのに…

あんなにノリノリで歌いに行った多田くんがかわいそうになり、多田くんに視線を向けてみると…

案の定、見ていてもわかるくらいに落ち込んだ多田くんがそこにいる。


さっきまでうれしそうにぶんぶんしっぽを振っていたのに、いまはしょぼんとしてしまっている。

ほんとうに、犬みたいなひとだ。

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