元カレ。【短編】
靖史の手が、しっかりと香奈の両肩を掴むと、すぐに香奈の体は靖史から引き離された。
靖史は香奈の肩を掴んだまま、顔を覗き込むようにして話しかける。

「大丈夫か?」

香奈は子供のように泣いている。

「大丈夫じゃない。」

靖史は一瞬困ったような顔をして、

「香奈はさ、俺や彼氏がいないとからっぽになっちゃうっていうけどさ、『自分』は無いわけ?」

言葉を選ぶように香奈に語りかける。

「彼氏が離れようとしたのも、『自分』が無かったせいだろ?言いたいこと堪えて相手のこと優先してたっていうけどさ、それって相手任せともとれるじゃん。それは重いって言われても…」

「なにそれ!!」

涙をこぼしながら呆然と靖史を見つめていた香奈が、突然表情を変えて叫んだ。

「なんで、なんでやっちゃんがそういうこと言うの?やっちゃんが…やっちゃんが余計なこと言うなって言ったんじゃん!やっちゃんが怒るから、私なんでも我慢するようになったんじゃん!それを何?いまさら自分の意見言えって!?」

一息にまくしたてた香奈は、うつむいて呼吸を整えようとする。けれど、深呼吸の音はまた、すすり泣きの声に変わっていった。


「勝手すぎるよ…。」
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