元カレ。【短編】
2人の間に沈黙が流れ、外の喧騒が聞こえる。どうやらやじうまも多く集まっているようだ。

「…〜だまってんなよ!俺の話聞いてた!?」

靖史が沈黙にしびれをきらして声を上げる。香奈は瞬きをした。涙は、止まっていた。

「あ…うん、やっちゃん変わったなぁと思って…。」

「そ。俺変わったんだよ。だから香奈も変わっていいんだよ。自分の思いぶつけたりしていんだよ。」

「自分の思い…。」

靖史がうなずく。

「彼氏と別れること、納得してないんだろ?それ言えばいいじゃん。」

「言えないよ!これ以上、雅人を困らせたくない…。」

「でも言わなきゃ結局また何考えてるのか伝わらないまんまだろ。」

「………。」

「変わるんだよ。香奈は自分の思いは伝える人間になんの!やりたいようにやる人間になんの!そしたら、からっぽじゃなくなるよ。彼氏がいなくても、俺がいなくても、『自分』があるから大丈夫だって。」

「……言っていいのかなぁ。」

「いーんだって!彼氏もほんとは聞きたかったんじゃないかと思うけど?」

また、香奈の瞳から涙がこぼれた。

「なーんだよ、泣くなって!香奈はやればできるから!」

靖史が笑う。
その笑顔に、香奈はひどく安心した。

伝えたかったのだ、本当は。
何も伝えないまま雅人を手放してしまったから、こんなに空虚な思いを抱えていたのだ。
雅人と一緒にいたい、やり直したい、そう伝えたかったのだ。
そして、誰かに背中を押してもらいたかったのだ。


「………ありがとう。」
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