元カレ。【短編】
靖史と香奈が付き合っていたのは大学生の頃だった。
靖史は同じサークルに所属する後輩で、話していて楽しいので香奈は気に入っていた。

靖史は古風な考えの持ち主で、「男らしくあること」をモットーにしていた。
だから告白は当然靖史の方からだった。

「あのさ、俺たち付き合わない?」

精一杯かっこつけたのであろうセリフと、気恥ずかしさに真っ赤にゆがんでいた顔のギャップが可愛くて印象で、香奈は忘れられない。



靖史は年下でありながら、とにかく「男を立てること」を香奈に教え込んだ。

付き合う前からのあだ名だからと、「やっちゃん」とみんなの前で呼ぶと拗ねて返事をしない。
後から、みんなのいるところでは「靖史」って呼べ、と怒られた。

思い出せば他にもある。2人で食事にいった時の話だ。
靖史が頼んだオムライスが先に来た。靖史は少し手を付けたが、食べるのを中断した。香奈は自分の料理が来るのを待っているのかと思っていたから、自分のパスタが来た時に

「待っててくれてありがと。食べよう?」

と食べ始めた。が、いっこうに靖史はオムライスに手を付ける気配がない。
勘のよい香奈が、

「…やっちゃん、もしかしてピーマン入ってた?食べてあげようか?」

と言うと、靖史はものすごい形相で香奈を睨み、何も言わずに香奈と靖史の皿を取り替えた。
これも後から、

「ああいう人が多いところで恥かかせるな」

と、かなり怒られた。



それに加えてさっきの怒りっぷり。全然変わっていない。香奈は懐かしさに微笑んだ。
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