元カレ。【短編】
「…なに笑ってんの。」

ムスっとした表情で靖史が訊く。

「いや、やっちゃん、変わってないな〜と思って。」

「…うっせーなぁ…まあどーせ、相変わらずガキですよ!」

拗ねたようにそっぽを向く。首も耳も赤くなっていた。
香奈は思わずまた微笑んだ。
こういうとこが、好きだった。
…香奈が社会人になって、こういう靖史のプライドが枷になって、別れることになった。



こちらから顔を背けたまま、靖史がぽつりと言う。

「香奈は…変わったな。髪長いし…誰かと思った。」

香奈は一瞬沈黙する。

「それは…きれいになったとか、そういうこと?」

「…知らねー!」

靖史はいよいよ背を向ける。


香奈はその長い髪をいじりながらとつとつと語る。

「ほんと、髪伸ばしただけで印象ってすごい変わるんだね、ひさびさに会った友達はみんなそう言うよ…。」

少し間を空けて香奈は目を閉じる。

「この髪ね、彼氏に伸ばしてみたら?って言われて伸ばし始めたの。やっとこんなに伸びたのにさ、今日、さっき、フラれちゃった…。」

驚いた靖史が振り向く。

「え…さっき?」

香奈はうなずく。

「2時間前…くらいかなぁ。」
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