元カレ。【短編】
「私の気持ちが重いんだって。会いたくても我慢してたのに。会ったときも、全部彼の希望どおりにしてたのに。それが重いんだって。キツいんだって。」

話しているうちに、涙がまた、あふれてきた。
からっぽだった感覚が蘇ってくる。
何かで満たさなくちゃ、と視線が泳ぐ。
モノであふれるコンビニの棚に、外から赤い光が差し込んできているのが見えた。既に警察は到着しているようだ。きっともうすぐ靖史は捕まるのだろう。

靖史。
昔と変わらない靖史。
からっぽだった香奈を少しだけ埋めてくれた靖史。
その靖史も、もうすぐ警察に連れて行かれる。

香奈は涙をこぼしながら、靖史に抱きついた。

「な!?どしたんだよ?突然。」

動揺した靖史の体温が上がるのを感じる。

「彼がいなくなって、私、からっぽになっちゃった…。今ここで、やっちゃんまでいなくなったら…またからっぽになっちゃう!」

強く強くしがみつく。

「ねぇ、やっちゃん、逃げよう?私、人質なんでしょ?私が一緒なら逃げれるよ…。」

泣きながら、香奈は靖史に訴える。
自分が無茶なことを言っていることは、頭の隅で理解していた。けれど止まらなかった、涙と同じように、止められなかった。
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