恋のカルテ
「お帰り、高原。もしかしたら戻ってこないのかと思った。まあ、今逃げても職場で捕獲するから得策とは言えないけどな」
先生は私の手から買い物袋を持ち上げると、冗談交じりにそう言った。
「捕獲って……人を動物みたいに言わないでくださいよ。せっかく、夕ご飯作ろうと思ってたのに。作りませんよ、私」
「作ってくれんの?」
「はい。お世話になるのでそれくらいはさせてもらいます。キッチン、お借りしますね」
私はさっそく夕食の準備に取り掛かる。
ほとんど使われていない綺麗なキッチン。鍋すらなかったらどうしようと思ったが、有名なブランドの調理器具が、未使用のまま箱に収納されていて、炊飯器やジューサー、ホームベーカリーなんかもある。
「先生、これ……開けて使ってもいいですか?」
「いいよ」
先生は私の隣にしゃがむと、大きな箱を取り出してその蓋を開けた。