恋のカルテ
「……本当にそう思ってますか?」
「思ってるけどなに? 高原がそうじゃないって証明してくれるのかよ」
「……証明ならできます」
どうやって、なんてわからない。
けど先生が私を傍に置こうと思った意味を、考えてしまったから。
でも、先生は首を横に振ると、ため息交じりに笑った。
「……あのな。そんなの求めてねーから安心しろ」
「でも」
呟いた言葉は、鳴りだした電話の音にかき消された。リビングの隅に置かれたファクシミリ付き固定電話が甲高い声で鳴き続けている。
「……きっと病院だ」
先生はため息を吐いてその受話器を上げる。それからすぐに電話を切ると、お財布と鍵を手に持った。
「仕事にいってくる。忙しいらしい」
「それなら私も行きます」
「必要ない。足手まといになるだけだ」
「……分かりました」
足手まといといわれて、私は小さく頷いた。
「だから悪いけど夕飯はひとりで食べて」
「はい」
玄関先まで見送ると、「多分、帰ってこれないから」先生はそう言って出て行った。
まさかとは思ったが、その言葉通り、日曜日の深夜になっても先生は帰ってくることはなかった。