恋のカルテ

男性が倒れてから三十分近くが経過しようとした頃、ようやく救急車が到着したのは、こともあろうに私が朝、マンションを出て目指していた病院だった。

「……ここは」

「ようやく到着しました。早く降りてください」

「は、はい」

そう促され、ストレッチャーの後に続いて救急車を降りる。

すると目の前に立っていたのは数名の医療スタッフ。

それとあの、男の人だった。

紺色のスクラブに白衣を羽織っている。

腕を組んだまま私を見下ろすとひと言こういった。

「遅かったな、高原加恋」

「私の名前……ううん、そんなことより、どうしてあなたがここに?」

「オレは佐伯朝陽。ここの救急科のドクターだ。後はオレが引き受ける、ぼさっとしてないで早く行け。もう入職式が始まる時間だぞ」

そう言われて私は自分の腕時計を見る。

「……九時⁉」

「そうだ。管理棟二階のセントラルホール。場所は分かるな?」

「はい、分かります」

私は佐伯先生に向かって頭を下げると、セントラルホールを目指して走り出した。


< 13 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop