恋のカルテ
男性が倒れてから三十分近くが経過しようとした頃、ようやく救急車が到着したのは、こともあろうに私が朝、マンションを出て目指していた病院だった。
「……ここは」
「ようやく到着しました。早く降りてください」
「は、はい」
そう促され、ストレッチャーの後に続いて救急車を降りる。
すると目の前に立っていたのは数名の医療スタッフ。
それとあの、男の人だった。
紺色のスクラブに白衣を羽織っている。
腕を組んだまま私を見下ろすとひと言こういった。
「遅かったな、高原加恋」
「私の名前……ううん、そんなことより、どうしてあなたがここに?」
「オレは佐伯朝陽。ここの救急科のドクターだ。後はオレが引き受ける、ぼさっとしてないで早く行け。もう入職式が始まる時間だぞ」
そう言われて私は自分の腕時計を見る。
「……九時⁉」
「そうだ。管理棟二階のセントラルホール。場所は分かるな?」
「はい、分かります」
私は佐伯先生に向かって頭を下げると、セントラルホールを目指して走り出した。