恋のカルテ
案の定、土曜日の夜に森くんから呼び出された私は、彼の行きつけだという小さなカフェバーにいた。
佐伯先生は知り合いの病院で当直のアルバイトを頼まれているらしく、午後の三時には家を出て行った。私が森君に呼び出されたことを相談したのに、「頑張っていい訳して来いよ」とまるで他人事のように言っていたっけ。
私とのことが噂になったら先生だって困ると思うのに。
「……――で、俺にもよくわかるように話してもらおうか」
まるで取り調べの刑事のように低い声でそういいいながらも、その顔はにやにやが止まらないらしい。
「黙秘します」
興味津々の森くんを突き放すようにそういうと、彼は前のめりだった体を椅子の背もたれにもたれて唇を尖らせる。
「えー、そんなのズルいよ。じゃあ、なんで来たのさ」
「森くんがこいっていったからだけど」
私は運ばれてきたビールを手に取ると、森くんのグラスにカチンと近づける。
「じゃあ、乾杯」
勝手に飲み始める私をあっけにとられた様子で見ていた森くんは、「もー」といいながらビールを飲み始めた。