恋のカルテ

その日。昼食にありつけたのは、午後3時を過ぎてから。今までオリエンテーションというぬるま湯につかっていたんだと改めて感じた。朝早めに起きてお弁当を誰もいない職員食堂で食べる。

大津さんはまだやりたいことがあるからと病棟に残った。昼抜きで仕事をするつもりだろうか。

「……はあ」

否応なしに漏れる溜息。初日から散々だった。担当に割り当てられた患者は五名。その中のひとりと上手くコミュニケーションが取れなかったのだ。

山田成子さん四十代女性。末期の胃癌。食欲不振などの症状が出て病院を受診した時はもう、手術ができない状態だった。最近は痛みの緩和が図れず夜間のナースコールが頻回となっているようだ。

そしてそのやり場のない思いをぶつける様に、看護師へ当たり散らす様子が問題となっている――そうカルテに記載されている。

私はその情報をもとに訪室し、山田さんの担当となることを伝えた。でも、彼女は拒否すると言ったのだ。研修医なんかに係わって欲しくないと。

私は五十嵐先生へその旨を伝えた。できれば担当を外してもらったほうが患者の為でもあると思ったから。なのに、五十嵐先生は首を縦には振らなかった。

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