恋のカルテ

すると壁際に立っている係りらしき男性と目があった。

訝しげに眉をひそめるその人に私は軽く会釈をすると小声で話しかける。

「すみません私、研修医の高原です」

「……高原。ああ、どうぞお入りください。お席までご案内します」

「はい、ありがとうございます」

案内されたのは最前列の真ん中。

百人ほどがひしめく会場で、よりによって。

こんな席とは。本当についてない。

大勢の視線を感じながら私は姿勢を低くして椅子に座ると小さなため息をついた。

すると突然隣の席の男が、私の肩をつつく。

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