恋のカルテ
私がセカンドオピニオンを受けられる病院探しを始めてからひと月後のこと。
山田さんは森教授のいる大学病院で手術を受けることが決まり、今日は転院の日。
午前中、患者さんの対応で忙しい五十嵐先生の代わりに見送りに来た私と看護師の八木さに、山田さんは「お世話になりました」と頭を下げる。
「手術、成功するように祈っています」
「ありがとう。高原先生」
私のことを初めて先生と呼んだ彼女の笑顔は希望に満ちていて、ここに漕ぎ着けるまでの苦労が報われた気がする。
タクシーに乗り込んだ山田さんを見送ると、張りつめていた緊張の糸がほどけ、溜まっていた疲れがどっと噴き出した。
「先生、顔色が悪いようですけど大丈夫ですか?」
八木さんは心配そうに私の顔を覗き込む。
確かにここ数日体調がすぐれないけれど、それと分かるほどではないはずだ。
「……はい、大丈夫です」
「そんなわけないですよね。看護師の観察眼、甘く見ないでください」
八木さんは私の腕を掴むと、ナースステーションまで戻った。