恋のカルテ
「……そうですけど、なにか?」
「やっぱりそうなんだ。クビにでもされてもう来ないのかと思ってたんだけど……よかったね」
バカにされていると思ってその男を睨みつける。
すると壇上に居並ぶ人たちの視線がまた自分に集中しているのが分かって、ぐっと拳を握りしめた。
やがて長い式が終わり、研修医は別室に集められた。
初期研修医は十名で私以外はすべて男。
無理もない。
医学部で一緒だった女の子たちはみんな口をそろえて言っていた。
ここの病院だけは選ばないと。
確かに症例数が多く、最先端の医療機器が導入されていてスキルを上げるには申し分はないのだけれど。
それに加えて、忙しくて休みもなくて、医局全体が体育会系だと知れば今時女子が嫌煙するのも頷ける。
それでも私は、自分ならやって行けると信じて、この病院を選んだのに。
朝の出来事を思い出すと、そんな自信すらどこかへ消えてなくなってしまった。
だからなのか、配布された白衣はずっしりと重い。