恋のカルテ
「高原!」
横たわる私に駆け寄ると、心配そうに顔を覗き込む。
「すみません、先生。少し体調が悪くて……でも、大丈夫ですから」
「そうは見えないけどな。熱は?」
佐伯先生は私の額に手のひらを押し当てる。
「熱くはないか」
「はい。でも、朝から寒気がするので上がってくるのかもしれません」
「そうかもしれないな」
先生はおもむろに聴診器を取り出すと、私の白衣の裾から差し入れる。
「何するんですか!」
驚いて先生の右腕を掴み引き出そうとするけれど、私の力ではびくともしない。
「なにって、診察だろ。過剰反応する方がおかしい」
「そうですけど」
「けどなんだ。こんなことされたらどうしようとか思う訳?」
いいながら先生は聴診器を胸の先端に押し当てた。
ひやりとした固いものが敏感な部分に触れた瞬間、思わず声が出た。
とっさに口を塞いだけれど、聞こえてしまっただろう。
恥ずかしいやら悔しいやら、体調は悪いやらでジワリと涙が滲む。
そんな私の様子に気づいた先生は、慌てた様子で聴診器を引き抜いた。
「わるい、ふざけ過ぎた。取りあえず点滴は家でするとして、処方しないとな」
「……はい。お願いします」
「うん」
先生は自分で処方した薬を薬剤部に取りに行った後、私を連れてマンションへと帰った。