恋のカルテ
マンションに着くと、私は先生に抱えられるようにして部屋に入る。
「大丈夫か、高原」
「……大丈夫、です」
「嘘だろ、お前すごく熱いぞ」
確かに体が熱い。寒気が引いて、急激に熱が上がってきたようだ。
「取りあえず横になれ」
先生は私をベッドに寝かせると、持ってきた点滴のボトルに薬を詰めて素早く針を刺す。
「痛くないか?」
「……いえ、全然痛くありません」
すごく上手だ。
私の腕の血管は他の誰よりも分かりにくいらしく、オリエンテーションにあった採血の練習のときなんて、森くんに三回も失敗されてしまった。私は平気だったけど、森くんはひどく落ち込んでいたっけ。
だから、一発で針を入れるなんてすごい。
先生はポールハンガーに点滴のボトルを吊るすと、チューブを針につないで滴下の速度を合わせる。
手際がいい。当たり前か。一分一秒を争うような救急外来でもたもたとしていたら仕事にならないだろうから。
「これでよし。……高原」
「はい」
「少し休め。ここの所、あまり寝てなかっただろう」
それは先生も同じだ。夜中まで私に付き合って、いろいろアドバイスをしてくれた。きっと大変だったと思う。だから、先生に看病してもらうのは本当に申し訳ない。
「すみません、先生。迷惑かけてばっかりで」
「ぜんぜん。……ほら、もう目をつぶれ」
私の額に手をあてると、先生は優しく諭して布団を掛けてくれた。