恋のカルテ
その日、担当患者の病状が皆落ち着いていたこともあり比較的早い時間に病棟を離れることが出来た私は、医局に戻るために管理棟へと向かっていた。
これから研修レポートのまとめや、今日の振り返り、明日のカンファレンスで取り上げたい内容の資料作りなど、やらなきゃならないことが山のようにあるのだ。
途中、廊下にある自動販売機でお気に入りのココアを買って、内科医局のドアロックを解除した。
その時だった。
「――加恋」
聞き覚えのある声に呼び止められて、私はビクリと肩を震わせた。
圭人だ。それが分かったから私は振り返ることもせずドアを押し開けて中に入ろうとした。
でも、背後から伸びてきた手は私の肩を掴み、強引に引き留めようとする。
「待って、加恋!」
「圭人、離して」
「離すもんか、やっと会えたんだ!」
「だからって困る。ここ、職場だよ」
しかも医局の目の前だ。廊下には医者を待っている圭人の同業者もたくさんいるし、病院職員の目もある。
「知ってる。でも、どうしても話しをしたいんだよ。電話にも出てもらえないし」
「あたりまえじゃない!」
「だから離すわけにはいかない」
全く引かない圭人に根負けした私は、職員食堂で彼の話を聞くことにした。