恋のカルテ
「後悔してるんだ。どうしてあんなこと言ったのか、自分でもわからないんだけど」
「分からないの?」
「……うん。あの時の僕は、仕事に忙殺されて常にイライラしてた。必死で頑張っても、数字でしか評価されない世界だ。リストラされることだってある。だから、医者として将来を確約されている加恋がうらやましいと思ったし、加恋の話が全て自慢話に聞こえた」
圭人の言葉が私の胸に突き刺さる。
「……そんな。私は私のまま変わらないつもりでいたのに。それに医者だって将来安泰ってわけでもないんだよ」
「そうだね。でも、どうしても劣等感を拭うことなんて出来なかった。僕にも男としてのプライドがあるんだよ。彼女が医者だなんて誰にも話せないんだ」
いつだっただろう、同じようなことを森くんが言っていた。
男のプライド。
私には分からないものだけど、圭人は私の知らない所で、たくさん悩みを抱えていた。それに気付けなかったのは、私の落ち度だ。
「だから別れようっていったの?」
「そう。でも、後悔してる」
「……ごめんね、圭人」
「どうして加恋が謝るの? 悪いのは僕なのに」
「ううん、私も悪い。圭人の気持ちわかってあげられなかったから。許してくれる?」
「許すも何も……じゃあ、うちに戻ってきてよ。また一緒に暮らそう」