恋のカルテ
遅刻したおかげで、配布されたらしい資料は私の手元にはない。
きっと佐伯先生は事前にこれを見ていたんだ。だから私の顔と名前を知っていた。
「……それなのに自分の正体は最後まで明かさないなんて、悪趣味」
「え? なに」
「ううん、なんでもない」
「そう? 俺は森亮介。よろしく」
握手を求められ、差し出された手に軽く触れる。すると遠慮もなく握り返されてしまう。
「ちょっと、手」
「別にいいじゃない。これから二年間、共に戦う仲間なんだし」
「……仲間」
「そうだよ、仲間。仲良くしてよね、高原さん」
無邪気な笑顔を向けられると、怒る気力すらなくなって思わず笑ってしまった。
なんだかとっても変な人。
でも悪い人ではなさそうだ。