恋のカルテ
割り当てられたロッカーに荷物を押し込んで、配られた白衣に袖を通す。
それから扉に付いている小さな鏡を覗き込みながら、肩にかかる長さの髪を黒いゴムで結んだ。
「よし、完璧」
私はペンとメモだけポケットに忍ばせると、ロッカールームから出る。
すると壁に寄りかかるようにして立っていた白衣姿の人が、ゆっくりと顔を持ち上げた。
「……佐伯先生」
「よお、高原。お前の連れて来た患者はCCUに送っておいたから。重度の房室ブロックで今は経静脈的にペーシングしてるけど、近いうちにペースメーカーの植え込みが必要になるだろう」
「やはりそうでしたか。助かって本当に良かったです。先生のおかげです。結局私は心臓マッサージ位しか出来なかった訳だし」
「まあ、そうだな」
「でも、だからって私のことあんなふうに言いふらすなんて……、酷いと思います」
「言いふらす?」
私の言葉に佐伯先生は訳が分からないとでもいう様に首を傾げる。