恋のカルテ


 翌週。病院の職員玄関の前で、圭人は出勤する私を待ち構えていた。

「加恋」

名前を呼ぶ圭人を無視してドアを開けて中へ入ろうとする。

「待って! 君に謝りたくてきたんだ。僕、本当にどうかしてた。営業成績が伸びなくて、追い込まれていて……正常な判断が出来なくなってた」

「……だからってあんな」

あんなことして、許せるはずがない。

「ねえ、加恋。戻ってきてくれないか。君がうんと言うまで、毎日でもここに来る」

圭人が私の肩を掴んだ。

「そんなことしても、私は圭人の所へは戻らないよ。好きな人がいるの」

私は彼の手を振り払う。

「あいつか? 料亭に乗り込んできたやつ」

「そうだよ。今はその人の所にいるの。だからもう、来ないで。……今までありがとう。部屋の荷物は後で取りに行くね。さよなら、圭人」

崩れ落ちるように膝をついた圭人に手を差し伸べることはしなかった。

私は目の前のドアを開けて中に入る。するとすぐそこに佐伯先生が立っていた。

「……加恋」

「当直、お疲れ様です。お弁当作ってきました」

笑顔でお弁当箱の入った紙袋を掲げる。

「ああ、うん。ありがとう」

「はい。だから、私のレポート手伝ってくださいね」

「それとこれとは話が別だ。自分でやれ、自分で!」

なんていいながらも、結局手伝ってくれる。

そんな先生がいてくれるから私はくじけそうになっても頑張れる。

まだまだ続く研修医生活も、きっと実りあるものになるだろう。


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