恋のカルテ
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やがて内科の研修が終わり、外科での研修が始まった。
新しい指導医は、寡黙で近寄りがたい人。
五十嵐先生とは全く違うタイプで最初は戸惑ってばかりだった。
胃が痛くなる日々。でも、負けてはいられない。
私が目指すのは、外科医だ。
この三カ月で、学べる事は全て学びたい。
そんな私の思いをきちんと汲んでくれた指導医は、他の研修医の誰よりも早くオペの助手に付けてくれた。
「そろそろ執刀してみるか?」
「はい! よろしくお願いします」
初めてのオペは虫垂炎だった。
前夜、なかなか眠れない私を見て、佐伯先生は笑っていたけれど、「仕方ないな」なんていいながら、イメージトレーニングに付き合ってくれた。
結果、オペは無事成功。
担当した患者が元気に退院する姿を見て、思わず泣いてしまった。
この感動を分かち合いたいのに、森くんと来たら仕事そっちのけで、恋に燃えている。
看護師の及川小春という人が好きなのだそうだ。
そして、その恋敵は先輩医師の高木先生だという。
「外科期待のホープと張り合うなんて、森くんもがんばるねえ」
「だって、本気だもん。及川さんのこと、振り向かせて見せるからみててよね」
「はいはい」
私の返事が気に入らなかったのか、森くんは拗ねたように口をとがらせる。
「何そのはいはいって。自分には佐伯先生がいるからって余裕ぶってさ」
「そんなことないよ、私だって幸せいっぱいってわけじゃないもん」
「そうなの?」
「そうだよ」
思い返してみても、好きだとか、愛してるだとか、そういう言葉をもらったことがない。
先生は本気の恋愛をしない人なんだから、当然か。