恋のカルテ
「色々な患者がくる。追い返したくなるような患者もだ。でも、まずはよく診ること。ろくに調べもせず帰した患者がなくなってしまった例も少なくはない」
先生は言いながら受付から回ってきた問診票に目を通す。
「自分で診れないと思ったら、専門の先生に意見をもらう。うちの病院はその辺の連携が取れているから大丈夫だ。いくつか嫌味は言われるが、ハイハイ聞いておけばいい」
「すべては患者さんのため、と言うわけですね」
「まあ、そういうことだ。慣れたらお前にも診察に入ってもらう。だからちゃんと見て置けよ」
それから数十名の診察を見学し、初日の当直業務は無事に終了した。
「お疲れ」
「お疲れ様でした。でも先生は朝までの勤務ですよね」
「まあね。加恋は準夜までの勤務だからこれで終わりだな。タクシーで帰ってもいいし、仮眠室で休んで翌朝電車で帰ってもいい」
「このままここに残ってもいいですか?」
「それでもいいが、今日は休め。なれて戦力になったら帰りたくても帰してもらえなくなるからぞ。だから、今日は帰れ」
「分かりました。今日は帰ります」
私は朝木先生に挨拶をして、病院を出た。
大きな欠伸をしながら時計を見ると、深夜二時を回っている。
タクシーを捕まえようと通りに出ると救急車のサイレンが遠くの方に聞こえた。
一年三百六十五日。病院は眠ることはない。