恋のカルテ
そんな私の言葉に佐伯先生は、少しだけ驚いた顔をして、やがてクスクスと笑いだした。
「おかしいですか?」
「いいや。気に入ったよ、高原加恋。……でも、お前はまだ医者じゃない。ちゃんとわきまえろ」
返す言葉がなかった。
悔しいけれど、その通りだと思うから。
今の私は医師国家資格を持っているだけ。
医者であって医者じゃない。
だからって、そんなにはっきりと言わなくてもいいじゃない。
「分かってます」
「そうか、ならいい」
佐伯先生はそう言って、白衣の裾を翻す。
同時に鳴り出したPHSをポケットから取り出して耳に当てると、長く続く廊下を駆け抜けていった。