恋のカルテ
「早々にお見合いの席を設けようと思ってるの」
「そんな。……でももし、私と別れても、先生は結婚しないと思います。以前、そう言っていましたから」
「あらそう。じゃあ、あなた。尚更別れたほうがよろしいんじゃなくって? こちらは書面上だけでも婚姻の事実があればいいんですから」
身勝手な言い分に怒りが込み上げる。
「なんですか、それ。結婚は金を生む道具じゃない。それに私は、先生と結婚できなくても傍にいられれば、それでいいんです」
「別れない、といいたいの?」
「そうです」
「強情なのね。まあいいわ、別れさせる方法なんていくらでもあるのよ」
真っ赤な口紅が引かれた唇が、綺麗な弧を描く。その瞬間に魔女の二文字が頭に浮かんでジワリと汗が滲んだ。
「それってどういう意味ですか」
「今に分かるわよ」
お継母様は残りの紅茶を飲み干すと、名刺と一万円札をテーブルの上に置いた。
タクシー代のつもりだろうか。突き返してやりたかったのに、まるで魔法に出もかけられたみたいに身動きが取れなかった。