恋のカルテ
私は問診票をみながら、受け付け順に声をかけていく。
反応は人それぞれで、とにかく早くみて欲しいという患者もいれば、待たされていることに怒りをぶつけてくる患者もいた。
「順番でお呼びしますので、お待ちください」
誠意を持って対応しながら、最後の患者に声を掛け終えた。その時、入り口に高齢の男女の姿が見えた。
ご夫婦だろうか。私は受付を探す二人に声を掛ける。
「こんばんは、研修医の高原といいます。どうされました?」
するとその女性は、恐縮したように答える。
「ああ、先生。頭が少し痛むんです」
「頭痛ですね」
「そうなんです。久しぶりに部屋の片づけをしたもんだからそれでだと思うんですよ。大したことないの。でも主人が心配するもんだから」
どうやらご夫婦のようだ。
「……すみません。大したことないのに来てしまって。ご迷惑でしょう?」
「いえ、そんなことはありません」
「うちの主人ね、ほんとに心配性なの」
そういって旦那様を見る。すると旦那様は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いやだってね、先生。こいつ普段はあまりあちこち痛いだなんて言わないもんだから、心配で連れてきたんですよ」
「そうだったんですか。今からですと二時間くらいは待ちますが、よろしいですか?」
私の言葉に夫婦は顔を見合わせる。
「……あなた、帰りましょう。また明日くれば大丈夫よ」
「そうか。……じゃあ、今日は帰ります」
私は日中の外来受付時間をご夫婦に伝えると、診察室に戻った。