恋のカルテ
「救急車、到着します」
誰かがそう叫んで、私は搬入口の外へ出る。
お願いだから、別人であってほしい。祈るような気持で救急車から降りて来たストレッチャーを覗き込む。
「……そんな」
昨夜の女性だった。私が帰宅させた患者だ。一瞬視界が真っ白になった。冷たい汗が噴き出して、全身が震える。
「おい、高原。さっきから変だぞ」
「……先生。私、昨日の夜トリアージにでて、この患者さんを帰宅させました」
「帰宅させた?」
佐伯先生は驚いた様子で聞き返す。
「はい。軽い頭痛だって聞いて、ご本人も明日診察を受ければ大丈夫だっておっしゃったから」
「どうしてそんなこと。……今はそれを責める時じゃないな。お前は外れたほうがいい」
先生は私の肩を押す。でも私はこの患者から逃げることなんて出来ない。
「いやです! 私の責任です。だから、助けないと」
おそらく脳出血だろう。ストレッチャーから処置室のベッドへと移す。
装着された心電図モニターを見ると、波形は徐々に伸びて行き、自発呼吸はもうすでにない。
私は踏み台に乗り心臓マッサージを始めた。