恋のカルテ
「佐伯先生、挿管してください。ライン確保して、昇圧剤。それからCTのオーダーもお願いします」
患者の家族の元から戻ってきた先生に訴える。でも首を縦には振らなかった。
「もうやめろ、高原」
「どうしてですか? 手を尽くせば、助かるかもしれない」
「助けてどうする? 人工呼吸に繋いでも、二度と目を覚ますことはないだろう。家族も延命を望んではいない。お前のしようとしていることは、家族の負担と医療費を無駄に増やすだけだ」
「それでも、私はこの人を死なせたくない」
「それはお前のエゴだ。命を救うことだけが、医者の使命だと思うなよ」
「偉そうに言わないでください。私は救いたいんです、目の前の命を」
「……勝手にしろ」
佐伯先生は、吐き捨てる様に言って、どこかへ行ってしまった。
それでも私は心臓マッサージを続けた。出勤してきた朝木先生に止められるまで。