恋のカルテ

 仕事が終わり、ロッカーでスマホを見ると、珍しい人からの着信履歴があった。

しかも数分おきに何度も掛けてきたいたみたいだった。

どうしたんだろう? そう思っているとまたスマホが鳴り出した。

「もしもし、お兄ちゃん」

兄は今、大学病院で外科医として働いている。

お互いに忙しいせいか、連絡を取り合うことは少ない。

そんな兄が電話を掛けてくるなんて。もしかしたら長年付き合っている彼女との結婚でも決まったんだろうか。

それなら嬉しい。暗く淀んでいた気持ちが少しでも明るくなれればいい。

「久しぶりだね。何かいいことでもあった?」

『バカか、加恋は』

「バカってなによ、もう」

『いいから聞け! 実家の病院が大変なことになってる。派遣されてた婦人科と小児科の医師が今期限りで来なくなる。それだけじゃない。借りてた病院の土地も、さら地にして返して欲しいって言ってきたそうだ。母さんショックで泣いてたよ』

その時、あの夜のお継母様の言葉の意味が、ようやく理解できた。

先生と別れさせるために、実家の病院にまで手を掛けた。魔女のしそうなことだ。

「……お兄ちゃん、大丈夫だよ。私がなんとかするから」

『なんとかって、なに言ってんだよ。お前にどうにかできることじゃないだろう』

「出来るの。……じゃあ、切るね」

電話を切ってすぐ、私は手帳にはさんであった名刺を取り出してそこにある番号にかける。

「もしもし、高原です。……お話があります。お時間を頂けますでしょうか?」


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