恋のカルテ
この間と同じホテルで待つように言われた私は、そこで二時間ほど待った。やがて現れたその人は、今日もブラックスーツを身に纏っている。
「お待たせしたわね」
「いえ。急にお呼び立てしてしまって、申し訳ございませんでした。麻生理事長」
椅子に座ってすぐ、私は本題を切り出した。
「この間の件ですが……あなたの望み通り、佐伯先生と別れます」
「そう」
「ですから、うちの病院にしたことを、全て撤回してください」
「……いいわ」
麻生理事長は、私の目の前でどこかに電話を掛け始めた。
おそらく相手は秘書か誰かだろう。実家の病院の名前を出して、白紙に戻すようにと指示を出した。
私は怒りに震えた。
こんな人のいうことを聞くしかなかった自分に腹が立ったのかもしれない。でも、どのみち佐伯先生とはうまくいかなかった。
だからもう、何の未練もないはずだ。それなのにどうして、涙が止まらないんだろう。