恋のカルテ
「たのしみだな。……そういえば、加恋ちゃんは東京の病院で働いていたことがあるんだよね」
東京の病院。
その言葉を聞くだけで、小さく動揺する自分がいる。忘れたフリをし続けている佐伯先生の顔が、不意に蘇ってくるから。
「……そうですよ。いました、東京に。そういうトキさんも、東京でお仕事されてたんですよね」
「まあ、僕の場合、一年の半分以上は海外暮らしだったったりしたんだけど」
言いながらトキさんは、指で作ったファインダーごしに私をみつめる。
「そうだ。今日は、君をモデルに撮らせてもらえないかな?」
「そんな、困ります」
「いいじゃない。もうすぐ死ぬヤツの願いくらい聞き入れてよ」
「もう。それを言うのは反則ですよ」
「やっぱりそうか、そうだよな」
トキさんがおどけて見せて、私たちは笑いあった。