恋のカルテ
「けど、優秀だよ。だからセックスも上手いんじゃない?してみたらいいのに。意外とハマるかもしれない」
そんな恥ずかしいことを平気な顔で口にする森くんを睨んで、唐揚げが突き刺さったままの箸を握り締めた。
「ふざけないで。私にはちゃんと付き合ってる人がいるんだから」
そう。私には高二から付き合っている人がいる。
同級生だった矢野圭人とは、大学進学と同時に上京し、同棲を始めた。
私より二年早く社会人になった圭人には、たくさん支えてもらった。
感謝してもしきれない、とても大切な存在だ。
そろそろ結婚の二文字が浮かぶけど、お互いに忙しくてそんな話にもならない。
そんな圭人は今、大手製薬会社のMR(医薬情報担当者)として働いている。
真面目な仕事ぶりで会社での評判もいいらしい。
この病院には今、別の担当者が出入りしているのだけれど、もし圭人が担当になったら私も協力してあげられたらいいな、なんて考えたりしている。
だからやっぱり落ち込んでいる暇なんてない。
佐伯先生を見返せるような立派な医者にならないと。前進あるのみだ。