恋のカルテ
「なんで教えてくれなかったの?」
「だって聞かれなかったから。それに両親が医者だと、常に比較されたり利用されたりしていろいろ面倒なんだよ」
「……そうなのかな」
「そうそう。それに俺、親父みたいな医者にはならないって決めてるんだ」
私の両親も医者だ。医療過疎の地域に病院を建てて、たくさんの人の命を救っている。
感謝はされるけど、経営は苦しくて、二人とも休みなく働いているのが現状。
子供時代は寂しいだけだったけど、今は違う。
父と母は私の誇りだ。
外科医になりたいのだって、父と同じ道を歩みたいからで。
でも今そんな話を森くんにしたら思い切り否定されそうな予感。
「もう帰ろう。定時に帰れるのも今の内だってさ」
「うん、そうだね。じゃあ、また明日」
「おつかれ」
「お疲れ様」
私は森くんと別れるとロッカーで着替える。
それからひとり、地下鉄の駅へと向かった。