恋のカルテ

「大変そうだね、圭人」

「まあ、ね。それより加恋はどうだったの? 初出勤」

「うん、いろいろあったけど……大丈夫だったよ。これからしばらくはオリエンテーションが続くからまだ気持ちは楽かな」

圭人には余計な心配をかけさせたくなくて、満員電車での出来事は伏せておくことにした。

それと、佐伯先生のことも。

「そっか、オリエンテーションか。ローテートが始まると、僕以上に忙しくなるんだろうな」

「うん、きっとね」

「……なんだか、医者になった加恋が遠くに感じるよ」

まるで呟くように言った圭人の言葉に、なぜか別れの予感を感じて。だから私は、慌ててその言葉を否定する。

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