恋のカルテ

「この中に、お医者さんはいませんか?」

しかし、名乗り出るものは誰もいない。

するとやがて周囲のざわめきはさらに大きくなっていった。

おそらく乗客の誰かが倒れたのだろう。

次の駅までは数分。

それまで持ちこたえてくれれば駅員が救急車を呼んでくれるはず。

けれど、もし今すぐにでも心肺蘇生が必要な状態だったら取り返しの付かないことになる。

迷ったのは一瞬で、私は震える声を絞り出すようにしていった。

「……私、医者です」

するとあっという間に目の前に道ができ、床に横たえられた人の姿が見えた。

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