恋のカルテ

「な、なんですか?」

驚いて外そうとすると手で制される。

「外すな。それで出席取ってるから、高原のと一緒にかざしておいてくれ」

この職員証は各自二枚配布され、出退勤管理や電子キーのロック解除に使われている。おそらく会場の入り口に出欠確認のためのカードリーダーが設置されているのだろう。

「院内で行われる講演や研修会なんかの出席率が悪いとボーナスに響くんだ」

「だったらなおさら、そんなこと出来ません」

「出来ませんか。そう言う真面目な所、好きだな」

先生はクスリと笑いながら、心にもないことをいう。本当に軽い人。

「そんなこと言ってごまかさないでください」

「ごまかしたつもりはないんだけど……って、もう時間だ。行かないと」

「なにいってるんですか、待ってください」

時計を見ながら歩き出そうとする先生をどうにか引き止めようとしたのだけれど。

「だからそんな時間がねーんだって。ちなみに場所はセントラルホール。六時半スタートだから遅れるなよ」

佐伯先生はそういうと、私を追い越して歩いて行ってしまった。

断ることもできなかった私は、仕方なくセントラルホールへと向かうことにした。

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