恋のカルテ
「……ただいま」
マンションに帰ると、圭人はリビングのテーブルでパソコンを開き、仕事をしているみたいだった。
いつもなら「おかえり」といってくれるのに今日はそれもない。
「結局今日も遅くなっちゃって……、ごめんね」
「別に謝ってもらわなくてもいいけど。ご多忙なお医者様は、早くなんて帰ってこれないんだからさ」
明らかに不機嫌そうな声。
圭人は、斜め後ろに立つ私をチラリとだけ見ると、すぐにまたパソコンへと視線を戻した。
「……圭人」
小さく呼んでみたが、振り向いてはくれない。
圭人の背中は私を拒絶しているような気がして、夕食はもう食べたのかとか、お風呂はどうするのかとか、そんなことも聞けずに、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。