恋のカルテ
その瞬間、私と圭人をつないでいたはずの糸が、プツリと切れる音がした。
私たちの八年は、これで終わってしまうのだろうか。
別れの理由を確かめようにも全く言葉が出てこない。まるで喉にふたがされているみたいだ。
ゴクリと唾を飲み込んでみたら、不快な鉄の味がした。
おそらく口の辺りが切れいるのだろう。
確かめる様にそっと触れてみると、腫れて熱を持っているのが分かった。
そんな私の顔を見て顔色一つも変えない圭人は、もう、私の知っている圭人ではないのかもしれない。
悲しかったけれど、涙は出ない。
きっとまだ、この現実を受け入れられていない証拠だろう。
「……分かった」
私は寝室のクローゼットから大きなボストンバックを取り出すと、手当たり次第に服を詰め込んだ。
それを持って玄関へと向かう私を圭人は追って来ることはなかった。