恋のカルテ
私は一目散に駆け寄ると、顔面蒼白の男性に声をかける。
「どうしました、大丈夫ですか、分かりますか?」
けれど、私の呼びかけには反応がなかった。
それどころか、呼吸すらしていないんじゃないかと思うほどグッタリとしている。
「意識がない。そうしたら次は……」
何をすればいいんだっけと、必死で考えはみるものの、焦って真っ白になった頭では何も浮かばない。
何度も頭に叩き込んで実習を繰り返したはずのことが、実際の患者を目の前にしたらなにもできない。
私は、そんな現実に打ちのめされそうになる。
いちどは静まったざわめきがまたぶり返し始めた時、私の背後から伸びてきた腕が男性の頸動脈(首筋にある動脈)に触れた。
「……触知できない。速やかに胸骨圧迫を開始しろ」
「……え、あの……」
驚いた私はその声の主を仰ぎ見る。
するとそこにいたのは、若い男の人だった。