砂の国のオアシス

14

「あれらがどこへ行こうと、俺の知ったことではない。だがナギサ。おまえはここにいろ」
「カ・・イル」
「Stay.Stay with me、Nagisa」

「あれら」って誰?と頭の片隅で思いながら、カイルとのキスに酔いしれた。
少しお酒の味がするキスは初めてだ。
きっとカイルは、今まで夜私の部屋へ来た後で、お酒を飲んでいたんだろうな。

いつの間にか自由になっていた両手を下ろして、柔らかいカイルの砂色の髪をまさぐるように触っていた。


そういえば、ジェイドさんも森に来てたけど、テオのことをどうしたんだろう。
カイルは「好きにしろ」って言ってたし。
ジェイドさん、カイル以上に激怒してたみたいだし・・・「んん」。

「何を考えている」
「いや、その、ジェイドさん、テオをどうするのかと・・・」
「知らんが、本気で激怒したジェイドを見たのは久しぶりだったな」
「あ、そ・・・!」


脈打つ私の喉元に、カイルがキスをする。
薄い肌だからか、それとも体中が敏感になってるからか、髭が伸びかけている、ざらついたカイルの肌のチクチクを、より感じる。

そのままカイルは、私の首筋から耳をひと舐めして、頬を通り、唇にキスをする。
脱力して手も動かせない私は、カイルのなすがままになっていた。




終わったのかな・・・。
カイル、イってくれたのかな・・・。

とにかくよかったとホッとしつつ、同時にカイルが離れて、寒くて寂しいと思って。
頭の中でいろんな思いが交差している中、初体験が終わった後、どうふるまっていいのか全然分からない私は、横向きにした体を丸めて、声を殺して泣いていた。



そのとき、私の左足首あたりに引っかかっていたパンツとストッキングが脱がされた。
ビクッとして、無意識に蹴り上がった左足を、カイルがつかむ。
カイルはそのまま私を仰向けにさせた。

カイル、まだいたんだ。
っていうか!

カイルは私の体を、濡れたタオルでキレイに拭き始めた!!

慌てて「自分でしますっ!」と言いながら上体を起こした私を、カイルは片手で私を押し倒す。
「動くな」というカイルの声は、いつもどおり怖いなぁと思うけど、言い返したり抵抗する気は、もうなかった。

カイルは、濡れたタオルで私のあそこ周辺を拭いてくれた後、中途半端に脱がされた私の服を完全に脱がせて、今度は乾いたタオルで全身・・耳も含めて拭いてくれた。

その手つきはとても丁寧で優しくて。
でも私は素っ裸に対して、カイルは上半身だけ裸って状態で!

・・・初めて見たカイルの裸の上半身は、感触以上に固くて、想像以上に素晴らしい。
二の腕の筋肉。そして胸毛。
まさに鍛え上げられた男の体!!って感じ。

ていうか、男の人の裸をちゃんと見たのは、これが初めてで・・・。

頭の中で、いろんな思考がせわしなく動き回る中でも、ちゃっかりカイルに見惚れていたそのとき、カイルが私の左耳に手を伸ばした。

「何!?チクッて・・いたっ」

咄嗟に左耳に手をやると、耳たぶに何かついていた。
思わず泣きそうな顔でカイルを見ると、顔めがけて何か投げつけられた。

「ぶっ」
「これを着ておけ」

顔めがけなくてもいいじゃん、と日本語でブツブツ言いながら、素っ裸だという現状を思い出した私は、ありがたくカイルから投げもらったものを着た。

あ。オレンジの香りがする。
それにカイルは上半身裸。
ってことはこれ・・・カイルが着ていたシャツだ。
いつ脱いだんだろう。
と思っていたとき、カイルが私に布団をかけてくれた。
そして私の前に鏡を見せて、左耳が見えるよう、髪を上げてくれた。

かすかに触れられたその仕草と、カイルの指の感触にドキッとしながら鏡を見ると、左耳たぶに、キラッと光る白銀の小さな丸がついていた。

「これは・・・」
「ダイヤモンドだ」

どーりで、小さいのに輝きがハンパないと思った。
とは言っても、私は生まれて19年の間に、本物のダイヤを含む宝石類を持ったことは一度もないし、身に着けたことは・・・お母さんのを、子どもの頃何度か持たせてもらったことくらいしかないから、本物か偽物かを見極めることもできないんだけど、カイルが偽物をくれるとは思えない。

「うわー。高かったでしょ、これ」
「たぶんな」

あぁそうでした。
国王(リ)であるカイルはお金持ちだろうから、値段のこととか気にしないんだよね、きっと。

「ナギサがいた世界にもダイヤがあるのか?」
「ありますよ。ダイヤはどちらかと言うと、高価な宝石になります」
「こっちの世界でも、ダイヤは高価な宝石の部類に入る」

慣れない新参物に、つい手が伸びてしまう私に、「そのピアスは俺の同様、自分で外すことはできん」とカイルが言った。

そう。
カイルもピアスをつけている。
確かテオも。
色と形は私と同じ、ということは、同じダイヤのはずだ。

ってことはこれ・・・おそろい、とか?
いやでも、マローク兄弟とおそろいって・・・うーん、よくわかんない。

でもカイルとテオは、私とは反対に、右の耳たぶだけにつけているのよね。

「あ、そう・・」
「耳を切り落とすしか、外す方法はない」
「え!本当?!」
「本当だ」

外すつもりはないけど、私の同意なしにいきなりつけられてもなぁ、って思わないこともなくて。
ていうか・・・。

「なんで私にそんな高価なピアスをつけてくれたんですか」
「そのうち分かる」

やっぱりはぐらかされたか。

「まだ痛むか」
「あ・・と。ううん、痛くない」

左耳もだし、あそこも・・・違和感あるけど、痛いってほどじゃあない。
でも気持ちはまだ痛いかな。

カイルは何に対して聞いたのか、耳だけなのか、全部なのか・・・分からない。
それに、初めての私のふるまいに対して、カイルが満足したとは思えない。
ホント小娘だよね、私って。
これじゃあ後宮にも入れないじゃん。

いたたまれなくなった私は、泣きそうな顔を見られないよう、うつむいた。

すると、隣にいたカイルが、ベッドに入ってきた。
カイルに寝かされた私は、すかさずカイルに背を向ける。
それくらいしか対抗する術がないから。

でもカイルは私を背後から優しく抱きしめて・・・。
目にたまっていた涙が、こらえきれずに溢れ出てきた。

何で私、泣いてんだろう。

「おまえはヴァージンだったのか」
「・・・・・・うん」
「ボーイフレンドはいなかったのか?」
「・・・いない。友だちはいたけど、おつき合いしたこと・・なかった・・」

あ。今私、友だちは「いた」って過去形で言った・・・。

「あの・・カイル」
「なんだ」
「ありがとう。いろいろ。ちゃんとお礼も言ってなかった・・・」
「それなら森で聞いた」
「え!聞いてたの!?」
「聞こえてきた」
「あ・・・・・・そう」

俺様なカイルが言うと、なぜ意味が微妙に違うと思えるのか・・・。

「俺に礼を言えば、おまえは心おきなく元いた世界へ戻れるのか?」
「・・・ない。わかんないよ!わかんないけど、私はここに属してない・・・」
「ここにいろ」
「カイル・・・」
「俺のそばにいろ」

カイルの声が遠くに聞こえる。
あったかいカイルの体が心地良い。
行かないで。離れたくないよ・・・。

「・・・・で。カイ・・ル」
「おまえが眠るまで俺はここにいる」
「あ・・・りが、と。やさし・・・」

「グラ・ドゥ、ナギサ」というカイルの声を最後に、私は眠りに落ちた。



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